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Flashの消長から見たwebのいま

Flashの消長から見たwebのいま

はじめに

こんにちは。デザイナーのウエモトです。
今年の11月8日(米現地時間)、AdobeがFlash Playerの深刻な脆弱性を修正するアップデートを公開しました。

何を今さら…の感もありますが、インターネット上で閲覧できるアニメーション(モーショングラフィックス)と言えば一昔前まではFlash作品が全盛でした。スマホ片手に闊歩するイマドキの子供たちはいざ知らず、猫も杓子もFlash、泣く子も黙るFlash、とにかくwebブラウザ上で動くリッチなコンテンツといえばFlash!みたいな時代がありました。
ところがFlashをサポートしないiPhoneが爆発的なヒットとなってモバイルファーストの時代を築き、さらに後発のAndroid陣営を率いるGoogleもまた段階的にFlashのサポートから撤退してHTML5対応を優先させています(そのためAdobeもAndroid向けFlash Playerのサポートを2013年9月に終了)。Web最大の動画プラットフォームであるYouTubeもすでにHTML5ベースのプレイヤーをデフォルトとして、Flashベースのプレイヤーを後景化させています。PC/スマホの別を問わず、ひところは盛んに「Flashは死んだ」と言われる状況にすらなっていました。

Flashの後景化とAdobeの新たな生存戦略

しかしAdobeもこうした状況の変化にただ黙っていたわけではありません。オープンなweb標準に逆行しているとして故スティーブ・ジョブスから突きつけられた三行半Thoughts on Flash(2010年4月)に対抗キャンペーンを展開し、結果としてキャンペーンに失敗しながらも、同時にオーサリングツールとしてのFlashをHTML5/JavaScriptへの書き出しに対応させています。最新版ではすでにAnimate CCと名称を変え、「HMTL5アニメーション作成ソフト」と銘打っていますが、ツールのインタフェースはFlashそのものです。

実際にワークスペースを見てみれば分かりますが、Animateの制作環境はFlash時代のものを継承しており、フラッシャーが違和感なくそのまま使用できるような設計となっています。ステージ上でベクター画像を作画したり、タイムラインでオブジェクトを編集してアニメーションを制作していく手順は何ら変わりません。
スクリプトの扱いに変更があったとはいえ、最終的なパブリッシュの段階で「JavaScript/HTML」を選択すれば、(canvas要素をJSで制御する)web標準にそった形式で動きのあるコンテンツをwebに公開することができます。もちろん閲覧にはFlash Playerは必要ありません。

つまり「Flashは死んだ」のではなく、「Flash Playerが安楽死しつつある」のが現状だと言えそうです。
Animateが書き出すコードはオープンソースで開発されているJavaScriptライブラリのCreateJSを利用しています。Flash Playerはオープンなweb標準技術がもたらした変革によって劣勢に立たされたものの、制作ツールとしてのFlashはそのオープンな技術に助けられるパラドキシカルな状況となっているわけです。しかもCreateJSはもともと著名なFlashエンジニアが開発したという泣けるオチまでついてくるのでした。

AdobeはFlashをAnimate CCとして延命させる以前から、webオーサリングツールであるDreamweaverのCS6バージョン発表時にHTML5対応を喧伝する特設サイト(※)を公開しています。それほどweb標準への対応はソフトウェアベンダーにとっても死活問題となっており、Adobeもまたweb分野での生き残りをかけてweb標準に親和的な道への舵を切ったと見て差し支えないでしょう。

※Adobe HTML5 特設サイト(レスポンシブ対応)
http://adobe-html5.jp/

またAdobeは動画配信プラットフォームであるPrimetimeでも、HTML5動画対応をセールスポイントとして日本での展開も進めています。

広告制作に狙いを定めたGoogle Web Designer

HTML5/JavaScriptを使えば、今やブラウザ単体でインタラクティブなコンテンツを表示できるのが当たり前のこととなっているため、ユーザにとっても簡単に得られる「エクスペリエンス(体験)」の利便性はかつてなく高まっています。
そこでモーショングラフィックス向けのwebオーサリングツールに一石を投じたのがGoogleです。GoogleはオフィススイートやGmailを提供するなど、検索エンジンだけでなくwebアプリのベンダーとしても大きな存在となっていますが、この数年来モーションコンテンツの制作ツールを無償で投入してきました。それがGoogle Web Designer(以下GWD)です。

GWDは2013年10月に最初のベータ版が発表されたHTML5ベースのオーサリングツールで、PC閲覧が前提のwebコンテンツだけではなく、AdScense、doubleclick、AdMobなどのweb広告やモバイルアプリ向け広告の配信システムにマッチしたコンテンツを手軽に作成できるようになっています。
インタフェースはAnimate(Flash)のようにグラフィックを編集するステージ画面とアニメーションを制御するタイムラインなどで構成されており、制作ツールとしては見慣れたものとなっています。 グラフィックの編集機能はさすがにAnimateほどではありませんが、ベクター曲線による作画もできますし、オブジェクトやステージそのものを3D回転させられる機能まで付いています。GoogleはGWDをインタラクティブなバナー広告を手軽に制作できるツールとしてプロモーションしていますが、確かにこうしたモーション機能うまく使えばユーザの関心を惹きつけるのに役立つでしょう。

GWDが書き出すコードはHTML5/CSS3/JSで構成されています。canvas要素を使ってベクター画像を描画するアーキテクチャはAnimate同様ですが、doubleclickやAdMob向けのコンテンツではHTML5のWeb Componentsに沿う形式でカスタム要素をJavaScriptで定義・制御し、コードを自動で書き出して制作者がストレスなく制作できるようにしています。
GWDを使ってwebページをまるごと制作することもできますが、インタラクティブな広告向けバナーを手軽に制作できる利点を押し出しているだけあって、Googleが展開する広告配信のプラットフォームに親和的な機能がアドバンテージとなっています。もちろん広告向けでなくてもモーショングラフィックスが簡単に制作できるところはAnimateと同じく有用なツールと言えるでしょう。しかも、それが無償で提供されているのです。Google恐るべし。

HTML5ベースのアニメーション制作ツールとしてGWDの他にもTumult HypeHippo Animatorなどがありますが、いずれも有償のため、新たに使い始める際にあえて選択する動機はそれほど強くはならないでしょう。

コミュニケーションの場を提供するweb

今回はネットニュースをとっかかりとしてweb向けのモーショングラフィックスを取り巻く環境について少しフォローしてみましたが、メディアとしてのwebは“パソコンのブラウザで見るもの”から、“閲覧デバイスを問わず短時間で手軽に情報をゲットしてシェアするもの”として役割が大きく変化したかのようでもあります。
つまりクリエーター主導の作品が発表されて盛り上がるような言わば“展覧会”としての場は縮小し、SNSなどでのやりとりを通して情報を共有するコミュニケーションプラットフォームとしての性格が強まっているのではないかということです。

心躍らせるモーショングラフィックスはブラウザ閲覧が前提のwebサイトを通してでなくても、いくらでも見て、体験することができます。それがアプリなのかゲームなのか広告なのかの別はありますが、いずれにせよwebサイトいう舞台の外で展開されるコンテンツ(しかもベースにあるのはweb由来の技術)に囲まれる私たちにとって、選択肢は実に多様化しつつあります。
こうした環境の変化に伴い、自ずとwebデザインに期待される役割も変化していくでしょうから、変化に対応できるデザインワークを心がけていきたいところです。

次回はCSSアニメを気軽に実装できるHTML5/CSS/JSベースのオンラインツールについて検討してみたいと思います。乞うご期待。

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